緑ヶ丘公園は帯広の中心部に位置し、その周囲を宅地で囲まれています。一方で池やウツベツ川に面した低地林を有し、多様な環境を生み出しています。
このような多様な環境は、水場を好む生物や森林を好む生物、またはその両方を巧みに利用する生物など、非常に豊かな生物多様性を生み出しています。
本ページでは緑ヶ丘公園で進めている、野生生物と共生するための「バットボックス(コウモリ用巣箱)」の取り組みについてご紹介します。公園の安全を守ることと、生き物たちの住処を守ること。この2つを両立させるための、みどりと花のセンターによる新しい挑戦です。
人間の安全か動物の保全か:公園の樹木が抱える課題
緑ヶ丘公園では、樹木の高齢化に伴い、倒木や枝折れのリスクがある「危険木」と判定せざるを得ない樹木が増加しています 。これまで当公園では、園路から離れている場合や樹洞(木の穴)を維持できる場合には、伐採を避け可能な限り樹木を残すよう努めてきました。しかし、老齢木の本数が年々増える中で、すべての樹木を保全し続けることは困難な状況にあります。伐採を回避しきれないケースの増加は、そこを住処とする生き物たちの生息環境を揺るがす大きな課題となっています 。

- 「お年寄りの木」にしかない価値: 老齢木には、若い木にはない「樹洞(木の穴)」や「剥がれた樹皮」があり、これらの構造がモモンガや鳥類、コウモリの貴重な営巣場所になっています 。
- 中堅層の不足: 現在、公園の樹木は高齢な木に偏っており、これらを伐採してしまうと、次代の木が育つまで生き物たちの営巣場所が急激に不足してしまいます 。
- 安全と保全のギャップ: 市民の安全(予防保全)は最優先ですが、同時に野生生物の営巣場所も減ってしまうことから、この両者のバランスを取ることが喫緊の課題となっていました 。
そこで当センターは、木が育つまでの「短期的な代替措置」として、失われた樹洞の機能を人工的な巣箱によって補完する取り組みをはじめました。
最初の対象種はコウモリに!
保全対策の実施にあたり、樹洞を利用する生物の調査を行いました。この結果エゾモモンガやコウモリ類、シジュウカラ、オシドリなど様々な生物が樹洞を利用することが明らかになりました。しかし、このすべてを一度に保全することは難しいのが現状です。このため、客観的な優先度から保全対象種をコウモリとすることに決めました。
ヤマコウモリ Nyctalus aviator
- 日本列島に広く分布し、食虫コウモリでは最も体サイズが大きい。
- 環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に位置づけられており、絶滅が危惧されている。
- 夜行性で日中の休息場所(ねぐら)には樹洞を使い、大径木の樹洞に強く依存する。
- 鳴き声の超音波は人間の耳で聞こえるギリギリの高さ(約20kHz)で、「キンキン」と聞こえることがある。

コウモリは、夜の間に昆虫を主なエサとしています。この中には、カメムシやコガネムシなどの害虫も含まれており、人間が気づいていないうちに環境を維持してくれる縁の下の力持ちです。きっとコウモリがいなくなると、世の中は虫で溢れるでしょう。
対象とするヤマコウモリは絶滅危惧種に指定されているものの、保全の方法がほとんど確立されておらず、すぐに始める必要がありました。
補足コラム:農業を支えるコウモリ
アメリカのトウモロコシ畑で行われた研究(Maine and Boyles 2015)
トウモロコシの害虫である蛾「アメリカタバコガ」をコウモリがどのくらい捕食しているかを定量的に評価したところ、なんと、世界全体で年間10億ドル(≒1,500億円)の貢献をしていることが明らかになりました。蛾の幼虫は葉を食べたり病気を媒介したりすることから、農薬の使用が欠かせませんが、コウモリが蛾を食べることで農薬の使用頻度を抑えコストを削減しています。
タイの水田での研究(Wanger et al. 2014)
タイの主食であるお米の害虫「セジロウンカ」をコウモリがどのくらい捕食しているかを定量的に評価したところ、年間で約120万ドル(≒1.8億円)もの経済的貢献をしていることが明らかになりました。これは約26,000人分の年間食料消費量に相当するお米を、害虫から守っている計算になります。コウモリがウンカを捕食することで、地域の食糧安全保障を支える重要な役割を果たしています。
広大な農地が広がるここ十勝においても、コウモリが害虫を捕食することで、人知れず私たちの食生活を支えていることでしょう。
コウモリ用巣箱 バットボックス
コウモリ専用に作られた巣箱のことをバットボックスと呼びます。聞きなじみの無い言葉ではありますが、構造自体はシンプルな作りになっています。ただし、みなさんが想像する巣箱とは異なるかと思います。鳥用の巣箱では当然底があって、巣材を運んで巣(産座)を作り、その上に卵を産んだり休んだりします。では、コウモリはどのように休むかイメージしてみてください。
きっと頭を下にしてぶら下がっているイメージだと思います。
実際に多くのコウモリは頭を下にした状態で休みます。このため、バットボックスでは、底に近い部分に出入り口があり、コウモリは上に登り、逆さになって休みます。この休み方のおかげでほかの動物が使わないよう樹洞や構造物も利用することができます。


園内には、現在5つのバットボックスが設置されています。設置効果を検証中のため、優しく見守ってくださいね。

よくある質問
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狂犬病などのウイルスは大丈夫なの?
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現在までに、日本国内でコウモリから狂犬病のような危険なウイルスは見つかっていません。ただし、ほかの動物と同様に病原菌を持つことはあります。これは、リスやモモンガでも同様で、野生動物と適切な距離を保っていれば過度に心配する必要はありません。また、公園内には以前からコウモリが生息しており、バットボックス設置によるリスクの増加はありません。
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コウモリが増えたらほかの動物がいなくならないの?
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本事業は個体数を増やすことを目的としておらず、やむを得ない伐採などで消失した生息環境を補うことを目的としています。このため、コウモリだけが過度に増えることはありません。コウモリは1年に1個体しか子を産めないので短期間で個体数が増える(ネズミ算式に増える)ことはありません。また、定期的なモニタリングを実施し、その結果をもとに適切な評価を行い、運営に反映させます。
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血を吸われないの?人間を襲わないの?
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吸血するコウモリは南米の一部地域にしか分布していません。このため、日本列島にいるコウモリが人間を襲うことはありません。多くの種は体重5~20 gほどで、人間を襲えるだけの体格はありません。
- ほかの生物は保全しないの?
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客観的な指標(レッドリストの掲載状況や研究事例数など)から総合的に判断して、まずはコウモリ類の保全を優先的に実施します。また、コウモリ以外の動物(シジュウカラやオシドリなどの野鳥やエゾモモンガなど)においても、状況に応じて発展させていくことを見据えています。
- 巣箱を架ければ樹木を伐採しても良いの?
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バットボックスや鳥類用の巣箱を設置することは、伐採を正当化する理由にはなりません(Rueegger 2016)。やむを得ない場合には代替策として運用することができますが、原則は自然樹洞を残すことが望ましいです。緑ヶ丘公園では、基本原則として樹洞がある樹木は残すようにしています。また、難しい場合には樹洞より上を伐採して下部を残すなどの対応をしています。
本事業には、設計から運営まで多くの専門家の方にご助言をいただきました。この場を借りて心より御礼申し上げます。
